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幻の玄米 長一さん物語

  • axisdo
  • 2024年9月1日
  • 読了時間: 3分

長一さんは、携帯電話を持たない。家の固定電話は留守に切り替わらない。

朝は早くに圃場に出かけてしまうし、夜は晩酌して寝てしまう。



 

長一さんの田んぼは、私達がふつう思い描く黄金色の稲穂がゆれる田んぼとはかなり違う風景。背丈も穂やモミの色もさまざま。

50種類以上の稲が混色し、まるで絵画のようだ。

 




長一さん。40年、たったひとりで農薬や化学肥料を使わず米を育てる。

長一さんが農家を継ぐと決めた時、父は「おまえの好きなようにしていいよ」と言ってくれた。長一さんは、意気揚々と「よ〜し!農業で身を立てるぞ!」と意気込んだ。すぐに大きな疑問にぶち当たった。どうして、決められたように農薬を使わないといけないんだ。どうして、自分の思い通りに米を作れないんだ。

素朴な疑問だった。

「その答えはおまえが見つければいい。そのかわりおれは何も口出ししない」

やさしくもあり、厳しくもある父の言葉だった。

若かったから、やってやろうと生来の負けん気も後押しして、手探りの、農薬を使わない稲作が始まった。気でも狂ったかと周りの農家から白い目で見られた。

虫が増えるし、草の種が飛んでくるからやめてくれと懇願された。でも、長一さんはやめなかった。とうとう村八分になった。それでも、「親父が好きなようにやれと言ってくれたんだ」その思いだけを胸に、農薬を使わないで米を作り続けた。




 

試行錯誤は、何年も何年も続いた。朝から晩まで働いた。でも、納得のいく米、満足のいく収量にはいつまでたっても達しなかった。

金にならない・・・。このままじゃ、かかあやおとうさんを養っていくこともできない。もうやめようか・・・

 



 

悩み続けていたある日。

「長一さんはすごいよ。私、長一さんが作るお米がいいの。そうじゃなきゃいやなの」

妻は言った。

若い頃、夢中になれるものがなかった。中途半端な生き方しかできなかった。

お天道様に顔向けできないようなこともあった。だから、一点の曇りのない米を作るって決めたじゃないか。俺には味方がいるんだ。ひとりじゃない。

野良仕事の合間に、売り先も頭を下げて探し回った。歯を食いしばった。食いしばりすぎて、歯はガタガタになり、とうとう4本だけになった。

そうして、やっとできた米。

 

「ああ、うんまいなあ!俺が作りたかった米はこれなんだ!」

 

それは、自然の力だけで、美味しさが引き出された米。

ひとづてに、長一さんの米は知られるようになっていった。

 

ある年、思い切って一面の圃場に何十種類もの種を撒いてみた。

すると、9月。スクスク育った稲穂は色とりどり。それはそれは美しい光景だった。赤、黒、みどり、黄色、香りのたつものも。





 

玄米のまま炊いてみた。口に入れると、噛めば噛むほど甘みが増す。言葉にできないほど美味しかった。まさに、「別格」。

そうなんだ!何十種類の稲のうち、今年の気候に最も適して育った米の集合体だから、美味しさも栄養も、頂点を極めた米の宝箱となったのだった。




 



後からブレンドしたのではなく、ひとつの圃場で一緒に生育。

しかも、40年農薬を使っていない土で育てられた、長一さんの五十種玄米。




こんな玄米は日本中どこを捜してもないだろう。




 



 
 
 

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